ご覧いただきありがとうございます、うこうこです。
最近、心理の業界では、ストレスやトラウマが取り上げられることが増えています。特に、トラウマの影響は今まで過小に理解されていましたが、実際は大きな影響をその人の人生に影響を与えることがわかっています。
そのように、ストレスやトラウマの影響が注目されている中、
ストレスはダウン症の人にどのように影響するのか?
が気になるところです。
そこで今回は、日本と海外の論文の内容を参考にしながら、ダウン症とストレスとの関係についてまとめていきます。
知的障がいがあるひとはストレスに弱い
ダウン症のであるほとんどの人が、軽度もしくは重度の知的障がいがあるといわれています。
その知的障がいとストレスとの関係について、2021年の日本の論文では以下のポイントが指摘されています。
- 知的障がいの人は健常児・者と比べて、精神疾患になるリスクが高い。10倍という研究結果もある。
- 知的障がいのある人とない人では身体的・精神的な健康について明確な差がある。
- 知的障がいのある子どもではトラウマ体験や虐待の経験が健常児と比べて高くなる傾向があり、その背景には生物学的なストレス脆弱性との関与や環境的な要因などが関係している可能性がある。
田中美歩(2022).要知的障害児・者のメンタルヘルスに関する研究動向 ー特別支援教育における支援・指導の充実に向けてー.東京学芸大学紀,73:309-314.
つまり、
知的障がいのある人はもともと生まれもった素因としてストレスに”もろく(脆く)”、そして、ストレスが与える身体や精神への影響は大きく、さまざまな疾患を引き起こすリスクが高い。
ということになります。
ダウン症と精神疾患
ダウン症の人が精神疾患にかかるリスクが高いことは海外の研究でも指摘されています。
例えば、うつ病などの気分障害、幻覚や妄想がでてくる統合失調症、不安が異常に強まる不安障害、手洗いや確認が止められなくなる強迫性障害、などの精神に関わる疾患になるリスクが高いことが言われています。
原因やメカニズムについては明確には分かってはいませんが、上述した知的障がいがあることでストレスに弱いことがひとつの要因といわれています。
ストレスを受けたときのダウン症の人の特徴とは?
2021年に書かれたダウン症の心理的ストレスについて、最新の知見に基づいてまとめられた海外の論文によると、ダウン症人はそうでない人と比べてストレスの影響が大きく、回復に時間がかかりやすいことが指摘されています。
Francois Poumeaud et al. (2021). Deciphering the links between psychological stress, depression, and neurocognitive decline in patients with Down syndrome. Neurobiology of Stress,14
ダウン症の人がストレスを強く受ける状況は?
その論文では、ダウン症の人がストレスを強く感じる状況としては以下のように述べられています。
ダウン症の人は、攻撃による被害(言葉、身体的、性的)、親の喪失、支援者の離脱といったトラウマ体験の直後に、認知機能が低下することが多い。
つまり、
- 何らかの被害を受けたとき
- 喪失体験(信頼できる他者が亡くなる、別居する、交代する等)があったとき
- 環境の変化(進学、転居等)があったとき
が特にストレスの影響を大きく受けやすいということになります。①や②は多くの人にとってもストレスとなりますが、③のように環境の変化がダウン症の人にはストレスになりやすい点はとても重要なポイントだと思います。環境変化があったときは、最初から無理させすぎずにゆっくりと慣れていけるような支援や配慮が大切になります。
ダウン症の人はストレスの影響を強く受けやすい
論文の中に掲載されていた図を引用したものが以下の図です。
左の図を見ると、ストレスを受けると精神状態がガクッと落ちていますが、ダウン症の人を示す赤い線の方が大きく落ちていることが分かります。
これは、他の人では耐えられるストレスでも、ダウン症の人には非常に大きなストレスとなることを示しています。
また、同じストレスでも、ダウン症でない人は時間が経てば回復しているのに対し、ダウン症の人は深刻な状態まで早く達してしまい回復が困難になってしまうことが示されています。これは、ダウン症でない人には回復可能なストレスでも、ダウン症の人では急性ストレス障害や心的外傷後ストレス障がい(PTSD)を引き起こしてしまうことが指摘されています。
ダウン症の人はストレスからの回復に時間がかかる
また、回復巣るまでの時間についても、ダウン症の人はそうでない人(青い点線)と比べて時間がかかっているのが分かります。これは、ダウン症の人はそうでない人と比べて、ストレスを受けた後の回復に時間がかかることを示しています。
それは、継続的に繰り返されるストレスによっても同様であることが右の図でも分かります。些細なストレスでも、ダウン症の人にとっては影響は大きく回復までに時間がかかるため、繰り返されると回復が間に合わず、徐々に状態が悪化していってしまいます。
ダウン症の人は自分の状態を言語化して伝えることが上手くできない人が多いため、周りの人が気づかないうちに状態が悪くなってしまうことがあるかもしれません。
ダウン症に人は、ストレスの影響を大きく受けやすく、反復的に繰り返されるストレスに非常に弱いのに、それを上手く伝えられないことで、深刻な状態に至ってしまう。
そのような状態を防ぐためにも、知的障がいがあるダウン症の人にとって、ストレス予防やストレスケアがとても重要になるといえます。
ストレス対策としてできること
まず、周りで関わる人が
本人の些細な変化に敏感でいること
が重要です。
- 活動性が低下
- 睡眠や食事の様子に変化がある
- ことばが少なくなる
- こだわりや頑固さが強くなる
- 身体不調が増える
- 不適応行動が増える
といったときには『何らかのストレスがかかっているかもしれない』という観点から生活状況を確認する必要があるかもしれません。
また、信頼できる支援者に早めに相談したり、場合によっては、心療内科や精神科への受診を考える必要があるかもしれません。服薬によって改善したという事例も見られています。
そのような状態悪化する前にストレスを予防する方法として
- 安心安全な環境を確保することをまず優先する
- 環境変化があったときは無理せず、少しずつ慣らしていく
- 社会的スキルを身につける(表現スキル、相談スキル、余暇を楽しむスキル、休むスキル等)
- 余暇を充実させる
まずは、その人にとってどのような環境であれば安心を感じられるのか?をしっかりと考えてあげることが重要です。雑音が苦手であれば静かな場所を用意したり、イヤマフを準備したりすることができます。ソワソワして落ち着かないのであれば感覚的に落ち着くグッズを用意することもできます。そのようにして、まず、安心安全に過ごせる環境を優先的に整えることが何よりのストレス予防になります。また、何らかのストレスがあっても安心安全が確保されていればストレスからの回復も早くなります。
そして、ダウン症の人は変化に対するストレスが大きいと考えられるため、変化がある前には事前にしっかりと説明をして(ことばだけでなく視覚的な情報を活用して)、変化の直後は無理をしないで少しずつ慣れていくようにする方が良いです。特に最初は、新しいことにすぐチャレンジするのではなくできることを淡々とこなすだけでも良いかもしれません。新しいことにチャレンジする際には十分に見通しが持てるように配慮することも大切です。加えて、余暇を充実させることもストレスの発散やストレスからの回復には重要です。
まとめ
変化に敏感でいること
言えない声を聞こうとする姿勢でいること
がダウン症の人に関わる上でとても重要なポイントだと思います。
ストレスは予防という観点と対処という観点がありますので、ダウン症の人に役立つ情報については今後も記事にまとめていきたいと思います。
また、ストレスはダウン症の急激退行にも影響している可能性があります。詳しいことについては急激退行についての記事も作成中ですので、そちらをお待ちいただきたいと思います。