ご覧いただきありがとうございます、うこうこです。
うこうこは公認心理師として、仕事で発達障害の子ども(乳幼児から高校生まで)や保護者への心理的支援を仕事としています。具体的には、発達検査、発達障害を評価する検査の実施、カウンセリング、関係機関との連携、等を行っています。
発達障害について耳にしたことがある人は多いと思いますが、まだまだ誤解も多いのが現状です。そのため、今回は、発達障害についてできるだけ分かりやすく解説していきます。
“発達障害”とは?
“発達障害”を分かりやすく定義すると、
- 何らかの発達のおくれがある
- それによって生きにくさがある
この2点を満たす場合に発達障害があると考えます。
例えば、発達のおくれがありながらも(❶を満たす)、日常生活や社会生活で、本人が生きにくさを感じていない(❷を満たさない)場合は、発達”障害”とはなりません。そのような発達のおくれがあっても生きにくさを感じていない(カバーして対処できている)人のことを“発達の特性がある人””発達凸凹がある人”などと呼ぶことがあります。
❶何らかの発達のおくれがある
“どのような能力がおくれているのか”によって発達障害はいくつかの種類に分けられます。
理解力の全般的なおくれ
ものを考えたり理解する力(=知的能力)が、一般的な平均の水準よりもおくれるものを知的障害(ID)といいます。
現在の日本の医療や行政の仕組みでは、理解力のおくれの程度によって、軽度・中度・重度・最重度に分けるようになっています。
以前は、”精神遅滞”と呼ばれていましたが差別的な意味合いを含むとして現在はほとんど使われていません。また最近では、医療領域の診断基準の変化に伴い、“知的能力障害(知的発達症)”と呼ばれることも増えました。重症度についても、理解力のおくれだけで判断せず、社会適応や生活自立の様子などを考慮して判断するようになってきています。
人との関係に関する力のおくれ
人との関係に関する力とは、社会性の力やコミュニケーションの力のことを指します。
人との関わりをスムーズかつ適切に行うには、多くの情報を読み取りつつ反応していく必要があります。相手の発言内容だけでなく、その発言の裏にある意図を読み取る必要があります。「なんか寒いね〜」は『窓閉めて欲しいな』だったりします。また、言葉だけでなく、表情やしぐさなどの非言語的な情報も読み取ることも重要となります。”腕をさすっている”しぐさは『寒いなぁ〜窓閉めてくれないかなぁ』の気持ちを表していたりします。
以上のように、言葉の意味や裏の意図を読み取る力、非言語の意味や裏の意図を読み取る力、そして、読み取った上で上手に反応する力(=双方向のやりとりの力)が、社会性やコミュニケーションの力の基礎となっています。
それらの力の発達におくれがあるのが自閉症スペクトラム症(ASD)といいます。
以前は、症状の違いから、自閉症、アスペルガー症候群、広汎性発達障害と分けて言われていましたが、近年は、それらを一括りにして自閉スペクトラム症(ASD)と呼ばれるようになっています。
注意や衝動を制御する力のおくれ
集中が持続できず気が散ってしまう、ミスが多い、物をよくなくす、などの不注意が目立ったり、落ち着いてじっとしていられない、待つことが難しい、思いついたら行動(発言)していまう、など衝動の制御が難しい様子が目立ったりと、注意や衝動を制御する力がおくれるものを注意欠如多動性障害(ADHD)といいます。
以前は、注意”欠陥“多動性障害といわれていましたが、”欠陥”という表現がネガティブな印象を大きく与えることから、”欠如”という表現でいわれるようになりました。
学習に関連する特定の力のおくれ
全体的な理解力に関係なく、読み、書き、計算などの学習に関連する特定の力だけにおくれが見られるものを学習障害(LD)といいます。
問題なく言葉のやりとりはでき、聞いたことや思ったことを書くことはできるのに、字を読むことが難しい場合は、学習障害の中の読字障害といいます。また、話すことや読むことができても書くことが難しい場合は書字障害といい、数の理解や計算が難しい場合は計算(算数)障害といいます。
学習障害の場合、読むことや書くことが”全くできない”だけでなく、素早く正確にできない場合も含みます。流暢さ(りゅうちょうさ)も判断の基準になるということです。
体の運動の力のおくれ
自分の意思で体をコントロールする力におくれがあるものを運動障害といいます。運動障害にはいくつかの種類があります。
運動の多くは、複数の動作を連動して行うことが多いです。縄跳びなら、手で縄を回しつつ足でジャンプするといった連動した動きが必要ですし、走ることや登ることも同様です。そのような連動した動きが難しいものを発達性協調運動障害といいます。
また、自分の意思とは無関係に動いてしまう(まばたき・咳払い・顔をしかめる・手足が震える・声を出してしまう、等)ものをチック障害といいます。動きと声に関するチックが継続的に見られるものをトゥレット障害といいます。
発達障害の原因
発達障害が起こる原因ははっきりとは分かってはいませんが、脳機能の研究の進展から、先天性の脳機能障害と考えられています。生まれつき発達障害の脳のタイプがあり、成長とともにその影響が発達上のアンバランスとして見えるようになってきます。また、遺伝の可能性もあるといわれていますが、何の遺伝子がどのように影響するかは分かっていません。
よって、“親が十分に何かをしてあげていなかったこと”が原因ではありません。最近は正しい理解が少しずつ広まってきていますが、親の愛情不足や関わり方が原因ではありません。
しかし、暴力やネグレクトなどの虐待によって、行き過ぎた不適切な関わりを継続して受けた子どもは、脳機能に影響を与えることが分かっています。そうなると、自閉症スペクトラム障害や注意欠如多動性障害の子と同様な症状を示すことがあります。
“おくれ”の定義と注意点
発達障害の原因は生まれもった脳機能によるもの(説が有力)であり、成長とともに全体または特定の能力におくれが目立つようになってきます。
子どもの発達のペースには個人差があります。ある時期に大きく伸びる子もいれば伸び悩む子もいます。そのため、発達障害によるおくれは、年齢とともに少しずつ改善していくこともあれば、なかなか伸びないということもあります。
そして、多くの人が、大人になっても発達のおくれは残ります。“おくれ”ということばには『おくれているだけだからいつか追いつく』という意味合いを含んで理解される方もいますが、発達障害においては、発達上の個人差を考慮して”おくれ”と表現しているけど、多くは大人になっても残るものである、とされています。
しかし、自分の特徴を自己理解し、工夫をして社会に適応している人もたくさんいるのも事実ですので、発達障害の程度だけで予後や適応の具合を予測できるわけではありません。
❷発達のおくれによって生きにくさがある
発達のおくれがあり、それによって生きにくさを感じているかが、発達”障害”となるのかどうかの分岐点になります。
子どもは自分では分からないため、保護者や家族、社会的場面で関わる人が困っているかどうかで判断することになります。子ども時代はなんとか適応していた人でも、大人になるにつれ、人間関係の複雑さが増し、求められる社会的な役割のレベルが上がっていく中で、何か上手くいかない感じから、失敗、挫折、トラブル等が重なっていき、”生きにくさ”を感じ、自分の特徴に気づいていくことが多いようです。
しかし、大人になっても、周りが困っていることに気づいていない自覚が薄い人もいます。そのように、本人は気づいていないけど周りが困っている場合、周囲からは冷たく対応されたり、距離を置かれたり、関係を切られたりすることが増えてしまいます。本人は自覚がないので、原因を周囲の人や環境のせいにし、「自分は悪くない」と思い込んでしまうこともあります。しかし、「自分が上手くいかなかったのは、自分の発達のおくれによるアンバランスだった」ことを理解していく中で、自分の中にある”生きにくさ”を実感していく場合もあります。
まとめ
発達障害とは何か?について、発達障害の種類を踏まえながら解説してきました。種類をまとめると以下の図になります。
知的障害(ID) | 理解力のおくれがみられる |
---|---|
自閉症スペクトラム(ASD) | 人との関係に関する力のおくれがみられる |
注意欠如多動性障害(ADHD) | 注意力や衝動を制御する力のおくれがみられる |
学習障害(LD) | 学習に関連する特定の力のおくれがみられる |
運動障害(MD) | 体の運動の力のおくれがみられる |
子どものための精神医学 滝川一廣 著 医学書院 より一部改変
これらの全てに共通するのは、同じ発達障害でも、状態は多種多様であることです。自閉症スペクトラムの人では、社会的なコミュニケーションが苦手な点は共通していますが、その程度の差は人それぞれです。注意欠如多動性障害の人でも、不注意は強い人、衝動性が強い人、どちらも強い人とタイプの違いが見られます。
また、これらの発達障害は重複する場合も多いです。自閉症スペクトラムでありながら知的障害を伴っていたり、自閉症スペクトラムと注意欠陥多動性障害が重複する場合もあります。
今回は基礎理解編として、発達障害の全体の枠組みについて整理していきます。今後、発達障害の種類について細かく解説する種類別編と、理解を深めるための応用的理解編もまとめていききますので、よければそちらも参考にしてください。
最後までご覧いただきありがとうございました。