ご覧いただきありがとうございます、うこうこです。
先日、第4回日本ダウン症学会学術集会が行われ、日本小児感染症学会の理事長である森内浩幸先生の講演がありました。
タイトルは、「コロナ時代に生きるダウン症者」ということで、現時点で分かっているコロナウイルスの子どもへの影響と、ダウン症の人への影響について解説されていました。
森内先生、コロナウイルス関連でテレビにも多数出演されていますが、ネット上では、「楽観論者だ」「科学的じゃない」といった批判的な意見も散見されます。
しかし、今回の講演では、研究結果に基づいた事実を丁寧に紹介し、エビデンスを重視した科学的な説明をされていました。コロナウイルスとダウン症との関係についても、このブログで取り上げた研究以外にもいくつかの研究を取り上げながら、論理的に解説されていました。
良い専門家であることと、大衆に分かりやすく説明することはまた異なった能力であるので、一概にメディアやSNS等の印象を鵜呑みにしてはいけないと、改めて思いました。
今回の、森内先生の講演ですが、個人的には『現時点でのエビデンスに裏付けられた情報を整理するためには大変役立った』と感じましたので、重要なポイントを整理してまとめておきたいと思います。
コロナウイルスの子どもへの影響について
子どもの感染が増加している(全体の数%から全体の3割へ)。”子どもの鼻粘膜ではコロナウイルスは増えにくかったが、オミクロン株では大人と差がなくなっている”との研究データがある。
60歳未満では、オミクロン株の重症率はインフルエンザと同等レベル。高齢者においてはインフルエンザより危険性が高くなる。
子どもにおいては、インフルエンザ・RSウイルス・手足口病の方が危険度が高い。オミクロン株になり、子どもの重症化の要因である小児多系統炎症性症候群はかなり低下した(13・4分の1ぐらい)。最も死亡リスクが低いのは7歳である。
リスクが高いのは、先天性心疾患、肥満、重度の神経学的障害、医ケアが必要な慢性呼吸不全、ダウン症などの染色体異常、重度の発達障害、小児がんなどの免疫不全状態の子どもである。
第6~7波になって、子どもの感染数が増えたことで重症例も増えている(重症化しやすくなっているわけではない点に注意)。第7波では死亡例が増えた。小児の重症・中等症の割合では、1歳以下の乳児(11.3%)、未就学児(52.1%)、小学生(26.7%)、中学生(5%)、高校生以上(3.8%)となり、5歳以下が6割を占めている。12歳以下で9割を占めている。そして、重症化した子の68%は基礎疾患のない健康な子どもだった(日本集中治療医学会 10月25日発表)。
逆にクループ(特徴的な咳と吸気困難)が増加。日本での基礎疾患のない乳児が死亡したケースでは、クループとして診療されていれば助かっていた可能性が高い。また、熱性痙攣も増加した。そして、香港等の報告では、急性脳症も増えたのでは?と言われている。インフルエンザによる脳症の発生率を超えている。しかも、痙攣や急性脳症は日本でも増えている。このまま増えれば、例年のインフルエンザ脳症に迫るかもしれない。
まとめ
- オミクロンになっても子どもの重症例は稀。
- しかし、感染者の急増により重症化する子どもの数は増えた。
- また臨床的特徴が変化している点には注意が必要(クループが増加、アジアの子供は痙攣、急性脳症に注意?アジアには脅威?)。
インフルエンザ脳症の治療方針より、インフルエンザ脳症は発症から急激に進行する。進行してしまったらどのような治療をこなっても効果は限定的なので、すぐに医療機関に搬送する必要がある。医療切迫が続けばそれが難しくなる可能性があり、その点は大変危惧される。
ダウン症者へのコロナウイルスの影響について
ダウン症児・者は、RSウイルスにかかると重症化しやすい。また、インフルエンザも重症化しやすいためワクチン接種が推奨されている。ニュージーランドなどでは無料接種対象になっている。
英国の研究結果より、ダウン症の人では、コロナウイルスによる死亡リスクは、ダウン症に伴いやすい様々な疾患・病態の影響を含めて考えるとリスクは25倍、それらの影響を取り除いても10倍あると報告されている。また、英国における住民対象の前方コホート研究では、ダウン症成人がコロナで死亡するハザード比は12.68倍、入院するハザード比は2.55倍との結果となっている。
アメリカのコホート研究(ヘルスケアシステムのデータ)では、ダウン症の人がコロナに罹患するリスクは32%少ないとの結果になっている。しかし、感染した時には、重症化率は6.14倍、致死率は18.2倍となっている。
ダウン症の人がどうして重症化しやすいのか?
- 巨舌、小顎、扁桃やアデノイドの相対的肥大、咽頭筋の緊張低下により、呼吸器感染が重症化しやすい
- TMPRSS2(SARSーCoVー2が細胞侵入時に利用する酵素で遺伝子は21番染色体上にある)の発現レベルが1.6倍高い→コロナに対する感受性が高い
- 免疫学的要因→T細胞の発達不全、B細胞数が低下→抗ウイルス活性が弱い
まとめ
- ダウン症があるというだけで、新型コロナの重症化のリスクがある(コロナ関連死のリスクは少なくとも3倍、もしかしたら18倍)。
- ダウン症者に特有な病態(先天性心疾患、肺高血圧症、アルツハイマー病認知症など)の合併があるとさらにそのリスクが増す
- ダウン症者は非ダウン症でも重症化のリスク因子として知られる病態(例えば肥満、糖尿病など)を合併しやすい
- それらの病態の合併まで考慮するとダウン症者のコロナ関連死のリスクは非ダウン症者と比べてかなり大きい
- 過度な予防対策でQOLを下げてストレスを増加させては元も子もないため、感染予防とQOLの維持のバランスが大切である。
まとめ 分かっていないことも多いが、分かっていることは確かにある
森内先生の講演のポイントを簡単にまとめてみました。
上記にまとめた内容は、研究の結果で示されたエビデンスのある事実として解説されていました。
コロナウイルスについては未だ分かっていないことも多いです。しかし、様々なデータを集め分析することは非常に多く行われていますし、研究結果として分かっている事実もたくさんあります。
そのようなエビデンスのある情報にアクセスし、自分なりに情報を吟味し、最終的には個々で判断していく、ことがコロナ時代において重要であると思います。
うちも、おーくんのワクチン接種の判断においても、そのような姿勢は役立ったと思います。
少しでも誰かの役に立てれば嬉しいです。
最後までご覧いただきありがとうございました。