ご覧いただきありがとうございます、うこうこです。
2020年に、アメリカのダウン症を研究する専門家の先生の講演を聞く機会がありました。
テーマは、ダウン症児/者の兄弟姉妹にどう寄り添ったら良いか?についてでした。
おーくんにはお姉ちゃんがいることもあり、とても勉強になった講演でした。それから、
「親としてお姉ちゃんに何をしてあげたら良いのだろう?」
と、自問自答しながら、手探りの中で関わってきました。親としては、きょうだいのことも大切だと考えていても、障がいのある子の方にエネルギーや時間がかかってしまうことは多く、きょうだいへ十分な関わりができているかどうか悩むことがあると思います。でも、どうしたら良いかわからないことも多く、葛藤した気持ちを抱くことがあります(僕もそうでしたし、その気持ちは今もあります)。
そんな中、最近出された論文の中で、障がい児/者のきょうだいについて研究した興味深い論文を見つけました。その論文を読んだことで、親としてお姉ちゃんとの関わりで何をしてあげたら良いのかが具体的になりました。ダウン症だけでなく、障がいのある子ときょうだいがいる親御さんにとって参考になる内容だと思いますので、今回はその研究をなるべく分かりやすくまとめてみたいと思います。
今回紹介する研究
今回紹介する研究は、こちら
湯浅正太(2022):日本の障がい児/者のきょうだいの学歴、収入、主観的幸福度に関連する因子の調査.小児の精神と神経 61(4):313-322
障害のある子の兄弟姉妹の中で、学歴・収入・幸福度(自分の人生が幸せと感じるか)が高い兄弟姉妹はどんな特徴があるのか?について調査した研究です。
論文の著者である湯浅正太先生は、現役の小児科医であり、自身も障がいのある兄弟がいる”きょうだい児”であった先生です。
YouTubeやブログ等で情報発信やさまざまな活動を熱心に取り組まれています。YouTubeの動画では、ご自身の経験を振り返りながらお話しされていて、とても参考になりますので、そちらもおすすめです。
研究で分かったこと
分かりやすいように、論文での記載に合わせて、障がい児/者の健常な兄弟姉妹を“きょうだい”、障がい児/者を“同胞”と記載します。
研究の概要
この研究では、学歴・収入・幸福度が高いきょうだいと、そうでないきょうだいとを比較して分析しています。“高い”の基準は以下の通りです。
- 学歴が高い=大学卒以上
- 収入が高い=世帯年収が500万円以上(←日本の世帯平均年収以上)
- 幸福度が高い=アンケートの全ての項目で自分の人生の幸福度が「とても満足」「やや満足」と回答した人
そして、学歴・収入・幸福度が全て高い人を”高値群”として、その他の人を”対照群”として比較しています。ちなみに、高値群の人は全体の19%でした。
結果①:障がい児/者の特徴は、きょうだいに影響するのか?
結論から言うと、障がい児/者の特徴は、ほとんど、きょうだいの学歴、収入、主観的幸福度に関係がありませんでした。
障がい児/者の特徴とは、年齢(年上or年下)、性別、障がいの程度(移動や会話が可能か?等)、医療的ケアの有無、などです。
高値群のきょうだいには、身体障がい児/者の割合が多い傾向にありましたが、知的障がいと発達障がいでは関連がありませんでした。
つまり、障がい児/者の要因が、きょうだいの学歴・収入・幸福度にはほぼ影響しない、と考えられるといえます。
結果②:学歴・収入・幸福度が高い人とそうでない人の違いはどこに?
障がい児/者の要因ではなく、きょうだいの学歴・収入・幸福度に関連するのはきょうだい自身の経験と親との関係でした。
きょうだい自身の経験とは、同胞の障がいを知った時期、同胞の障がいに最も悩んだ時期、学業成績が下がった時期、同胞との将来を考え始めた時期、などです。
学歴・収入・幸福度が高い高値群のきょうだいは、そうでないきょうだい(対照群)と比べて、
- 同胞の障がいを知ったのが、中学生以前である
- 同胞の障がいで最も悩んだのは、中学生以前である
- 学業成績が下がったのは、中学生以前である
- 同胞との将来を考え始めたのは、中学生以前である
との割合が高いとの結果になっています。
つまり、高値群のきょうだいは、中学生以前の早い時期から、同胞の障がいについて知らされており、そのことに悩んでいて、将来についても考え始めていた、ということになります。
これらの結果は、高値群と対照群を比較した際には、差が見られましたが、統計的な分析では差が明確にあるとはいえませんでした。その統計的な分析で差がある結果になったのが、親との関係です。
それは、同胞に関する主な相談相手が親であるかどうか、ということです。学歴・収入・幸福度が高いきょうだいは、同胞の主な相談相手が親であるということと明確な関連性が指摘されました。
よって、同胞についてきょうだいがきちんと親に相談できることが重要であると考えられます。
研究結果から考えられること
障がい児/者の要因よりも、きょうだいがどのような経験をしてきたのかが、学歴、収入、幸福度に影響することが示されました。
そしてその中でも、親がきょうだいにどのように関わるかがとても重要であるということです。
研究で分かったことから、ポイントを僕なりにまとめてみました。
- きょうだいには、同胞の障がいのことは早い段階で伝えていく。
- 同胞のことをオープンに話せる関係を大切にし、きょうだいの話をしっかり聞いてあげる。
- きょうだいの自己決定を尊重する姿勢を示していく。
❶について、子どもが小さいうちは、明確に理解するのは難しいとは思いますが、ごまかしたりウソをついたりせずに、理解できるように努めながら伝えていくことが重要だと思います。
❷について、きょうだいは同胞や親に対して複雑な感情を抱き、遠慮したり良い子として過剰に振る舞いすぎたりしてしまうことが指摘されています。ネガティブな気持ちを持つことは悪いことではないことを伝えたり、親もネガティブな気持ちを抱くことがあることを伝えていくことが役に立つかもしれません。
❶と❷に関しては、家族内の関係性がオープンであることが重要であるということになります。
それらがある上で❸がより重要になります。自分や家族などについて悩むのは思春期以降の中学生や高校生の頃が多いと思います。しかし、高値群では同胞について最も悩んでいた時期が中学生以前であると答えている人の割合が多い傾向にありました。これは、親が相談相手として機能していたことに加えて、同胞のことは親がきちんと引き受けており、きょうだいは自分の人生を自分のものとして向き合えるような家族の関係性があったのではないか、と考えることができると思います。
実際に、今回の研究の中で、高値群は対照群と比較して既婚している人の割合が多いとの結果が示されています(学歴や収入の要因も否定できませんが)。自分の家族をもつことができたのも、育った家族から巣立ち、自分の人生を主体的に生きることができた一つの結果であるとも考えられます。
まとめ
今回は、障がい児/者のきょうだいを扱った研究を紹介しました。その結果からは、親がきょうだいにどのように関わっていくかが重要であることが分かりました。
記事をまとめていて気づいたのですが、今回紹介した研究から分かった”きょうだいへの関わり方で重要なこと”ことと、アメリカの専門家の先生が指摘されていたこ関わり方で重要なポイントが、共通している!ということです。
特に、先述しましたポイントの❶と❷が重要であることはほぼ共通しています。
その点について詳しくまとめてありますので、興味がある方はコチラも参考にしてみてください。
また、個人的な感想として、今回の研究では学歴・収入・幸福度が全て高い人をひとくくりにして高値群としていましたが、学歴や収入が高くなくても幸福度が高いきょうだいはどの程度いるのか?そして何が違うのか?も気になるところです。さらに、きょうだいがどのようなネガティブな気持ちを抱き、どのように折り合いをつけていったのか?といったことも研究としてまとめられるととても役立ちそうな気がします。
今回の記事も、少しでも多くの方に参考になればと思います。そして、ダウン症や障がいのある子や親などに役に立つ研究が増えていくことを期待します。
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