ご覧いただきありがとうございます、うこうこです。
以前、アメリカのダウン症専門家であるブライアン・スコトコ(Brian Skotko)先生の講演について紹介しました。
そして、ブライアン・スコトコ先生による講演の第2段が、昨日(2020.11.3)行われました!ブライアン・スコトコ先生が取り組まれている、ダウン症医療の新たなシステムについての講演でした。
また今回は、日本におけるダウン症の専門家として、玉井浩先生と竹内千仙先生を含めた対談もあり、大変濃密な時間となりました。
今回の講演を聞いて、ダウン症の子の親の立場として、そして、ダウン症の子どもに関わる医療職の立場として感じたことをまとめてみたいと思います。
バーチャルクリニック”DSC2U”
今回、スコトコ先生が紹介してくださっったのが、ダウン症のバーチャルクリニックである”DSC2U“です。
背景
この医療システムを作るに至った背景が、アメリカにおけるダウン症の専門医療機関がダウン症の5%程しかフォローできていないという現実があるとのことでした。最先端をいくアメリカでも、多くのダウン症の人が専門的医療機関に診てもらえていない現実に驚きました。
そして、専門医以外の医師はダウン症に関する最新の情報を持っているとは限りません。特に、成人を対象とする医師は、その傾向が顕著である現実があります。
そのような現状の中、多くのダウン症の人に専門的な医療を届けるシステムとして、DSC2U(Down Syndrome Clinic to You)を作られたとのことです。
DSC2Uとは?
DSC2Uとは、オンライン上で、ダウン症の人の現在の症状や状態を質問項目に回答していくことで現在の状態について医学的に診療してくれる、ツールです。
身体状態、免疫や血液からわかる病態、精神的な状態、などについて医学的な評価をしてもらえます。アルツハイマー症状などの成人期以降の症状についてもカバーできているとのことです。さらに、栄養状態、必要とされるライフスキル(自力で交通機関を使うスキル、自分の状態を伝える自己表現スキルなど)、必要とされる療育や教育的な支援、などについても評価をしてくれます。
アルゴリズム化されているので、質問に回答していくことで自動的に評価が行えるようになっています。その評価が介護者向けと医師向けのレポートとして出力されるのですが、参考となる動画や、文献、書籍などが参照できるようになっており、最新の研究に基づいた知見が見れるようになっているとのことです。そのレポートを診てもらっている医師に伝えることで、現在の状態と必用な検査や支援等を理解してもらい、診療に役立ててもらうことができます。
以上より、オンライン上での診療の枠に止まらず、かかっている医師の診療をサポートすることを目的としているといえます。かかっている医師に専門的な知識や経験がなくても、診療の方向性と具体性を示すことで、専門的な医療を受けると同等に近い医療を提供するツールといえます。
現在、英語とスペイン語での言語対応のみですが、今後拡大していくことを考えているようです(なので、日本での紹介としての今回の講演だったのだと思います)。アメリカでも商業化しリリースされたのが、今年の8月とのことなので今後の動向に注目です。
ちなみに、1回の診療で49ドルとのことでした。皆さんはどう感じられますか?ん〜高い?
講演を聞いて感じたこと・考えたこと
ざっと、講演の内容について紹介しました。講演後の、玉井先生と竹内先生を含めた対談を聞いて感じたことや考えたことを整理していきたいと思います。
ダウン症の子の親の立場として
親の立場としては、『今後に期待したい!利用できるようになると良い!』が率直な感想です。
ただ、おーくんに限って言えば、現在必要かと言われると「No」になります。おーくんはダウン症専門ではないですが、障害のある小児に特化した医療機関で、診察と療育を受けているため、ありがたいことに現在においては必要性はあまり感じません。しかし、ネットやSNSでは、専門の療育や医療機関となかなか繋がれず、ご両親自らが医療機関を探し回られている方もおられることを知り、DSC2Uのようなツールの必要性を感じています。
そして、おーくんが成長し、青年期にかかってくると考え方が変わってきます。成人を診てもらことができる医療機関にどのように情報提供をするか、について考えなくてはいけなくなります。さらに、青年期以降のダウン症に関する情報は多くはありません。特に成人期における情報は非常に限られていると思います。そのため、DSC2Uの診療情報は、親や医師にとっても、大変有用な情報になるのは間違いないと思います。そのような時期にあれば、是非利用してみたいと考えると思います。
また、対談でも話題に上がっていましたが、親が急にサポートできなくなったり、親が亡くなってしまった後でも、情報を残しておくことで継続的な支援に活かしやすいという利点があるのは安心感を持てるという意味でとても良いと思いました。
今もこれからも不安は尽きないと思いますが、特に、青年期からと成人期にかけての不安は大きいですので、その時期に正確かつ具体的な医療的な支援が受けられる可能性を広げるDSC2Uには大きく期待したいところです。
ダウン症に関わる医療職として
うこうこは、公認心理師として医療機関で障害のある子どもたちや家族への支援を行っています。そのため、現在の医療システムなどについて多少事情を知っているという立場になります。
その立場で今回の話を聞いて思ったことは、『DSC2Uの診療情報をどのように使うかが重要である』ということです。
医師は、専門領域を持つプロフェッショナルな職業ですので、自身のやり方に誇りを持っている人が多いと思います。そのため、外部からの医療情報をそのまま率直に受け入れることが難しいこともあります。人間の心理的にも、自分のプライドにに関わることで意見を提案されると反発しやすいという心理が働きます。そのため、あくまでも参考情報としての利用が望ましいと思います。
DSC2Uのレポートを、患者(とその家族)と医師とで、共有し、確認し、対話をしていくプロセスが重要だと思います。患者と医師を繋ぎ、方向性を検討するためにひとつのツールとしての使用が現実的な気がします。現在の医療でも、他院へ移る際には、本人の様子や診療経過を情報提供書として記載して移行先に情報を伝えることがあります。そのような形がひとつの目指すところになるのかなと思いました。そうすることで、医師がDSC2Uの方針に全て従って目の前の患者を見ないという状況も避けることができます。
多くの方が利用することで、多くのデータを収集することができるため、研究的な応用も可能だと思いましたが、この点の倫理的な枠組みがどうなっているかは分かりません。しかし、量的なデータの分析を通して見えてくることもあると思いますので、この点についてはさらに聞いてみたいところでした。
まとめ
今回の講演を聞いて、ダウン症医療の未来について考え、思いを巡らすことができたのがとても良かったと思います。日本での実用性や応用可能性については今後も議論の余地があると思いますが、ダウン症の親としては大きな期待を抱かずにはいられません。成人期の退行現象やアルツハイマー症状などを考えると、医療の進歩はダウン症の未来には欠かせないものです。その進歩を感じさせてくれた貴重なお話を聞かせていただいた機会に感謝したいと思います。
最後まで、ご覧いただきありがとうございました。