ご覧いただきありがとうございます、うこうこです。
前回の記事では、特別児童扶養手当(通称:特児)の判定における自治体間の格差が深刻であることを、データを用いた研究結果から解説しました。
しかし、特児の格差を明らかにしただけでは何も変わりません。
厚生労働省の委託を受けた信州大学の本田先生と篠山先生らの研究班の本気はここからでした!
格差解消のためにさらなる研究を積み重ね、解消まであと1歩のところまできたのです!
その研究の内容がスゴイので分かりやすくまとめてみます。
格差解消の必要なのは何なのか?
そもそも、格差はなぜ起こっているのでしょうか?
それはは以下の問題点があるためです。
- 医師の診断書による書類審査のみで判定するが、診断書の精度が高くない。
- 判定のための統一された基準やガイドラインがないため、各自治体の判定医の裁量に委ねられている。
よって、格差を解消するためには、
①判定に必要な情報について高い精度で得られる診断書の作成
②統一された判定基準やガイドラインを作成する
が必要だといえます。
本田先生らの研究班はこの2点についてダイレクトにアプローチしました。
改善への取り組み① 医師の診断書の書式改定
まず、本田先生らの研究班は、日本児童青年精神医学会に所属する医師1140名へのアンケート調査を行い、診断書の改訂案を作成しました。
次に同学会の626名の医師に、模擬症例11例に対して改訂案を用いて実際に診断書を作成してもらい、統計的に分析を行いました。その結果、改訂案を使用するのは妥当であるとの結果を得ました。
この診断書の改訂案ですが、従来のものと大きく変更されています!
そもそも、特児の判定の多くは、知能指数や発達指数の数字と要注意度の評価の2つの指標で判断されてきています。
その要注意度について、子どもの実態を明確に反映するものでないとして、廃止しました。
また、後述する判定基準にも係るところですが、「障がいのために要する援助の程度」と「日常生活への影響度合い」の2つの観点からの評価を行う形式に変更し、それぞれがスコア化(点数化)できるように項目を大幅に変更しています。障がいの程度だけでなく、日常生活においての大変さや介助の質や量もきちんと考慮して判定を行うようになっています。
その他、細かい点ではありますが重要なポイントも多々変更されています。
- 障害基礎年金(精神の障がい)の診断書と整合性が得られる形式にした
- 診断書作成時までの子どもの経過が分かるようにした
- 特別支援教育や不登校支援を受けていればその様子が分かるようにした
- 福祉サービス等の利用状況を明記するようにした
- LDやチックなど発達障害の症状を幅広く捉えられるように詳細に記入する形式にした
- 日常生活の適応行動について、全介助・半介助・自立の3段階評価を廃止し、各項目全てにおいて年齢相応か不相応かでチェックするようにした(=年齢と実際の発達の差をしっかり把握できるようにした)。
- トラウマや解離症状、睡眠障害、身体化症状を追加し、精神症状も詳細に把握できる形式にした
- 引きこもりや脅迫など問題行動も把握できるように形式にした
めちゃくちゃ大きな変更がなされたことが分かると思います!
知能指数や発達指数の数字や、ざっくりとした要注意度という指標での判断を避け、その子の障害の詳細や精神症状や問題行動を幅広く捉えられるように修正したといえます。精神症状や問題行動も考慮するようにし、加えて、受けている支援やサービスも分かるようにすることで、子どもの実態がより鮮明に把握できるようになっています。
改善への取り組み② 統一した判定基準の作成
本田先生らは次に、①で作成した診断書改訂案にもとづいて、判定のための統一基準としてのガイドラインを作成しました。
大きなポイントは、前述したように、精神症状(発達障がい)や知的障がいの程度を5段階で評価し、また、日常生活能力の程度と障がいのため要する援助の程度もスコア化して評価することによって、その2つの評価の関連性を見ることで判定ができるようにしました。
研究報告からの引用ですが、以下のようになります。
令和5年度厚生労働科学研究費補助金 特別児童扶養手当(知的障害・精神障害)に係る等級判定ガイドライン案の作成のための調査研究より引用
絶対のこの通りに判定するというわけではなく、あくまで目安ですが、なるべく客観的な評価を行い、公平に判定するには重要な統一基準だと思います。
以上のように、ガイドラインが作成されたところで、診断書改訂案とガイドラインを39の自治体の44名の実際に特児を判定している判定医師に送付し、ガイドラインに基づいて複数の模擬症例について判定してもらいました。
そのデータを集計し、統計的に分析を行ったところ、一定の妥当性と中〜高程度の信頼性が確認されました。
つまり、判定に必要な子どもの状態像がしっかりと反映されていること、多くの人に使用してもらっても結果のブレが少ないことが証明されたということになります。
よって、診断書改訂案とガイドラインを用いることで、統一基準に基づいた判定が可能であることが証明されたといえます。
本田先生らの研究報告書では以下のように結論づけています。
本研究で作成し最終調整した認定診断書改訂案、認定診断書作成要領案、等級判定ガイドライン素案は、十分に実装可能な水準であると考えられる。
このように結論づけたということは、自信を持って使用できるレベルのものができたということです。
まとめ
本田先生らの研究の成果として、
すぐにでも実装可能な水準である、高い精度で情報が得られる診断書と、統一基準としてのガイドラインが作成された。
これが実装さあれれば、特別児童扶養手当の自治体格差は解消され、どこに住んでいても統一的な基準のもとに運用されることになるでしょう。
「格差解消まであと1歩」としたのは、研究の考察の中で
認定医が判定を行う際の目安となる事例集や、判定に際して必要に応じて申請者に照会するための補助的な情報ツールがあると認定の曖昧さをさらに抑えられることができる
と最後に残された課題が示されていました。この点はデータを取って分析する必要はなく、そんなに難しことではないため、そう遠くないうちに対応できるのではないかと思います。
逆に、診断書やガイドライン自体に課題は示されておらず、それらに修正等の必要はないということでもあります。
そうなんです!
診断書改訂案やガイドラインに基づいた基準の実装はいつ行われてもおかしくありません!
特児の格差解消は目の前まできている!と言っても過言ではありません。
参考・引用
令和5年度厚生労働科学研究費補助金 特別児童扶養手当(知的障害・精神障害)に係る等級判定ガイドライン案の作成のための調査研究 研究代表者 本田秀夫