ご覧いただきありがとうございます、うこうこです。
“発達検査や知能検査の結果の数値に振り回されないために”シリーズの第2回です。
第1回はコチラ↓
“検査の数値の意味は明確に説明がされることが少なく、直感的に理解しやすい数字だけが一人歩きしてしまうことがある”と第1回の記事でまとめました。
今回の記事では、発達検査や知能検査の数値の意味について見ていきながら、発達検査と知能検査の違いについてもまとめてみます。
シリーズ第3回のテーマが一番重要なのですが、その第3回のテーマを考えうえで必要な前情報となる内容になっています。複雑で分かりにくいところがあるかもしれませんが、検査が何を測定しているのか?がザックリとつかめていればOKです。
DQやIQの数値の意味は?
発達検査や知能検査では、子どもの発達の状況や知的能力の程度に測定し、結果が数値として出てきます。
発達指数=DQ、知能指数=IQと言われています。
おおよそ、発達検査ではDQ、知能検査ではIQの数値が使われています。
DQ=典型的な発達からのズレを表した数値
発達検査で用いられるDQ(=発達指数)とは
発達の基準をもとに、その基準をどれだけ達成できているのか?を数値化したものです。分かりにくいと思いますので下の図を見てください。
こそもの発達において、”何ヶ月、または何歳でどんなことができるようになるのか”はおおよそ決まっています。それを基準として、検査を受ける子がどのくらいの発達の段階までできるのかを検査課題を通して評価します。
例えば、実際の年齢が2歳6ヶ月の子が「運動面では1歳3ヶ月の基準までは達成できた」とすると、
実年齢は、2歳6ヶ月
運動面における発達年齢は、1歳3ヶ月ということになります。
発達年齢が出せたところでDQを算出していきます。それが下の図です。
図のように、運動発達のDQが50であれば、実年齢の50%ぐらいの発達段階である、という感じになります。発達に遅れがないと、実年齢と発達年齢が同じぐらいになります。ぴったり同じだと100になります。おおよそDQが90〜110の範囲だと年齢相応の発達段階になるといわれることが多いです。
以上のような評価・計算を、運動発達とか、ことばの発達とか、目と手の発達とか、それぞれの発達の観点でDQを算出していくのが発達検査になります。
DQを用いる発達検査のポイント
DQを用いる発達検査について、良さ、注意点、具体的な検査名についてまとめてみます。
発達検査の良さ
- 何歳程度の発達の段階にあるか分かるので、おおよその発達段階が分かる。
- 次に目指す発達段階も分かるため、どんなことを意識して関わると良いかが分かる。
- 子どもにとっては遊びの感覚で実施できるものが多い
発達検査の注意点
- 発達のペースには個人差があるため、数値が変動しやすい場合がある
- 能力の詳細な分析については確立された方法がない
- 実施には融通が利きやすい分、知能検査と比べて客観性に欠けるところがある
発達検査の具体名
- 新版K式発達検査
- 遠城寺式・乳幼児分析的発達検査
- 田中・ビネー知能検査(※IQを用いる) 等々
IQ=同年齢の平均からのズレを測定した数値
IQ(知能指数)の定義は検査によって異なりますが、一番メジャーなウェクスラー式について見ていきます。ウェクスラー式では知能を以下のように定義しています。
知能とは「目的を持って行動し、合理的に考え、効率的に環境と接する個人の総体的能力」である
と定義しています。いまいち分かりにくいですが、
『様々な情報(言葉や目で見た情報など)を、正確かつ効率的に理解したり考えたりした上で、置かれた状況に効率よく対応する力』といった感じで、インプット(理解)とアウトプット(思考から表現)を正確かつ効率よくこなす力と理解しておくと良いと思います。
そのIQの数値はどのようなものかというと、
検査成績が、同年齢の平均からどれくらいズレているのか?を数値化したものです。下の図を見てください。
まず、検査をいろんな年齢の子どもにたくさん実施して検査の成績のデータを集めます。そして、そのデータを年齢ごとにまとめて統計的処理(集められたデータをもとに、日本全体の子どもに検査を実施したとみなすデータ処理のようなものと理解しておけばOKです)をして基準を設定します。
その基準が
IQの平均の真ん中の基準を100とする。
90〜109の範囲内であれば平均的な知能指数である。
という基準になります。
つまり、IQとは、“検査を受けた子どもの知的能力は、同年齢の全体の中でどのくらいの位置にいるのか”を表しています。同年齢の集団の中の相対的な位置を表しているということです。
少し細かい話になりますが、IQが130以上の知能指数がすごく高い人は全体の約2%しかいません。同時に知的障害が疑われるIQ70以下も同様に全体の約2%ということになります。
知能検査では、全体のIQだけではなく、ことばの力、目で見て理解する力、考える力、目や耳の記憶力やその記憶を使う力、等々、知能理論で裏付けされたいくつかの観点においても、それぞれのIQを算出することができます。その結果を見て、どのような力が得意で、g逆に苦手か、を分析するようになっています。知能のいくつかの側面において、得意・不得意な力は何か?を測定できるのも知能検査の良いところです。
IQを用いる発達検査のポイント
IQを用いる知能検査について、良さ、注意点、具体的な検査名についてまとめてみます。
知能検査の良さ
- 世界的に認められている知能の理論に基づいて検査が作成されている
- データに基づいている点に加えて検査手順等が厳格に設定されているため、客観性が高い
- 統計的な分析として裏付けられた上で、得意な力や苦手な力が分かる
知能検査の注意点
- 数値の魔力(前回の記事参照)が強く発揮されやすいため、検査の主旨以上の解釈がなされてしまうことがある
- 指示を聞いて机上課題ができない子には実施が困難
- データを読み取り、検査結果を具体的に活かすためには検査者の力量が必要
知能検査の具体名
- ウェクスラー式知能検査
※検査を受ける人の年齢によって、WPPSI(ウィプシー)、WISC(ウィスク)、WAIS(ウェイス)と種類が分かれる
近々導入される、世界保健機関(WHO)が定める診断基準であるICD-11では、知的障害の重症度の評価は、「知的能力において、同年齢からのズレの大きさをもとに評価する」と明記されるようになります。①のタイプの検査よりも②のタイプの検査の方が重要視されるようになってきていると考えられます。
発達検査と知能検査のポイントまとめ
専門的で難しい内容だったため、理解しておきたいポイントをまとめてみます。
一番大きなポイントは、発達検査と知能検査は異なる検査であるとということです。
そして、発達指数は発達の理論に基づいた発達段階を基準にしていて、知能指数は知能理論をもとにデータに裏付けされた平均値を基準にしている、といった違いがあることも重要です。
発達段階を知り、次の発達段階を考慮しながらどのような関わりをしていったら良いのか?を知るのであれば発達検査の方が役立つかもしれません。
逆に、同年齢の子たちとの差を理解し、その子の得意なところや苦手なところを把握して支援や配慮に活かす、のであれば知能検査の方が役立つかもしれません。
そのため、子どもの発達の状況に合わせることが基本ですが、発達の積み重ねが重要な乳幼児期は発達検査を、周囲と同様に集団の中で行動していくことが重要な学童期以降は知能検査を実施することが多いと思います。
まとめ
DQやIQは何を意味するものなのか?について見てきましたが、難しい内容だったと思います。今回はざっくりとした理解で全然OKです。
次回が全3回時リーズの最後ですが、このシリーズで最も大切な内容になります。
次回は、”検査の限界”について解説したいと思います。ここを理解しておくことで、2つ良いことがあります。それは、このシリーズのタイトルにあるように「数字の魔力に振り回されずに済むこと」と、「子どもの能力をどんな観点で考えていったら良いかが見えてくること」です。
心理師として検査結果をお伝えをする際に、とても多く質問をいただくのが、
- 「検査の数値では高いのに、どうして○○ができないんでしょう?」
- 「数値はあまり高くないけど、周りの子より△△はできているのですがどう考えたら良いのでしょうか?」
といった検査結果と実態のギャップに対してどう理解したら良いのか?という質問です。この観点は、子どもをきちんと理解していく上ではとても重要なポイントになります。それは、このギャップをどう理解するかが、子どもの能力をきちんと理解できるかどうかを左右するからです。
次回は、そんなポイントについて、解説していきたいと思いますので、もう少々、お付き合いいただければと思います。
最後までご覧いただきありがとうございました。
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